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対談特集:研究開発担当取締役と技術者が語る

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グローバルメジャーの実現に向けてイノベーションを加速する取り組み

グローバルメジャーの実現に向けてイノベーションを加速する取り組み

左から)取締役 上席執行役員 研究開発、IT、法務・知財、LSI事業担当 立石 哲夫 / LSI事業本部 電源・標準LSI事業担当 Aさん / LSI事業本部 AFE・モータLSI事業担当 モータLSI商品開発2部 Cさん / LSI事業本部 技術開発担当 LSIデバイス開発部 Bさん

本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2024に掲載されたものです。

ロームのなかでの自身の役割や経験

A

A
私は自動車向けと民生・産業機器向け電源ICのPMEを担当しています。主な業務は、市場やお客様のニーズを把握し、どういった製品を、どのタイミングで市場に投入すべきか、ロームが持つ技術やリソースを活用してどのような強みを持った商品を企画できるかといった、商品企画や戦略立案を行っています。現在直面している課題は、担当している製品分野がコモディティ化してきており、競合各社の商品の特性面で大きな差がなく、価格で決まるようなケースが増えているなかで、どう勝つストーリーを描けるかということです。私自身が一番成長を実感できた経験は、ドイツの販社への出向です。
2015年から約7年間、現地で海外のお客様との開発プロジェクトや技術サポート業務を担当しました。日本で長年行ってきた業務でしたが、赴任当初は語学力が足りず、仕事の取り組み方や価値観の違いもあり、お客様や現地メンバーとコミュニケーションをとることに苦労しました。頻繁にコミュニケーションをとり、自分の考えや思いを丁寧に伝えることで、徐々に信頼を得ることができたと思います。さまざまな困難を乗り越え、最終的にプロジェクトを立ち上げることができた経験は、大きな自信になっています。

B

私は、LSIのアナログパワー製品の主力製造ラインであるBCDラインの開発を担当しています。電源やモータといった、ローム主力LSIに求められる電力の変換や制御は、パワーを外界に伝える必要があるため、導体部分のパワー配線技術も重要な34技術の一つです。その銅(Cu)配線+フリップチップワイヤレスパッケージ開発にあたり、2つの困難な点がありました。まず、どちらの技術も、熱による応力に非常に影響を受けやすく、チップにクラックが発生しやすいこと。もう一つは、チップ側と組み立て側でセクションが違うため、クラックが発生した場合、どちらが原因なのか判断しづらいということです。開発当初にクラックが発生し、案の定、どちらのセクションに原因があるのか問題になりました。しかしこのときのチームは、工場側の製造部門とパッケージ側の組み立て部門をまたいで動いていました。そのため、どちらが悪いという視点ではなく、パッケージサイドは樹脂やフレーム構造を変え、チップ側は配線構造の変更やデザインルールに制約を設けるなどして、各々自分たちでできることを行い、改善に取り組みました。こうして自動車用電子部品の試験規格「AEC-Q100」で求められる温度サイクル試験の数倍以上の堅牢な技術を確立できました。この技術を用いた製品の量産が決まったときはとてもうれしかったですし、一つのチームで目標を達成できたスペシャルな体験だったと思っています。

C

私は商品開発の部門で、EVやハイブリッド自動車のトラクションインバータ向けの絶縁ゲートドライバICの商品開発を行っています。自分が開発したICが搭載された自動車を街中で見かけたときは感慨深いものがあり、仕事のやりがいを感じた瞬間でした。というのも、そのIC開発の際、SiCパワーデバイスのスイッチングノイズで誤動作が発生し、どういった経路でノイズが伝搬しているのか、どのような電圧・電流変動が起こっているのか、なかなか原因を特定できず、解決するのに苦労したからです。その困難を乗り越え、量産できたことは、私の成長にとってとても重要だったと思っています。

立石

立石
服部さんが担当しているPMEの方向性は、カスタマーフォーカスで、お客様の困りごとの解決が一番大切というところに端を発しています。ただ難しいのは、例えばカスタムでお客様に言われたものをそのままつくると、他のお客様には売れないという事態が起こる。お客様同士も競争しており、似たような要求があるので、異なる要求に同じ製品でこたえることが最も望ましい形です。個別の違った要求の共通点を見つけ、良い企画ができれば、やりがいが出てくるのではないでしょうか。また、2030年のグローバルメジャー実現を目指すなかで、海外の文化の理解は重要です。私も4年半ほどの海外経験がありますが、国が変われば考え方が全く違いますし、外国語で丁寧な表現やニュアンスを伝えるのは難しい。できるだけ海外に出て、そうした経験を積むべきで、その点をロームとして伸ばしていきたいところです。Bさんが言ったように、エンジニアたちが一緒に働くことはとても大事だと思います。私は社員の皆さんには、自分の専門技術の隣の範囲の技術についても、エンジニアとディスカッションができる程度には理解しておくように言っています。こうしてほしいという話をするとき、正しい言葉で話せないと自分の希望すら伝わりません。海外ならなおさらそうで、グローバルメジャーとなるためにも必要です。ロームは何でも知っているスーパーマンに支えられてきましたが、今は、専門性を高めた人財をつくる動きが出てきています。その場合、専門性と専門性に隙間が出てくるので、そこを隙間なく埋めるにはどうすればよいか、社員の皆さんと考えていきたいです。最後に、Cさんが言った社会実装されたときのうれしさは、ものづくりの醍醐味といえます。それは当社の企業目的の「文化の進歩向上に貢献する」ことにほかなりません。そういう仕事ができるのはエンジニア冥利に尽きますし、私もその環境づくりに努めていきます。

C

異なる要求に同じ製品でこたえることが望ましいという話がありましたが、例えばコスト競争になったとき、機能を極限まで絞ってコスト競争力に勝るものが勝ち残ると考えています。立石さんはどのようなご意見ですか。

立石

そこは非常に明確で、コストを下げるのが第一優先で、入れる機能は極限まで絞るべきだと思っています。ただし、そのゴールは、多くのお客様の要求を満たすことです。Aさん、Bさん、CさんがいればA、B、Cの要求があり、全部入れれば恐らく売れません。値段が高くなるからです。実はその3人が言ったことのなかに、共通の問題を解くためのカギがあるかもしれない。マーケットの要求はマーケットの困りごとでもあるので、それに対して各お客様が、こういうことができれば解決するから、こういうものをつくってほしいと言ってきているわけです。その根っこは一緒で、今マーケットで何が困っているのかが浮かび上がってくるケースがあります。そこから考えたソリューションがA、B、Cの要求を満たすのだとすれば、それが素晴らしい製品・企画となります。市場要求とは個別要求を指しているのではなく、本当の困りごとは何なのかを見極めないといけない。そこを見逃さずに、製品をつくっていける会社が強くなると思っています。

ロームが創出する価値や向き合う社会課題とは

B

ロームは経営ビジョンのなかで「“省エネ”・“小型化”に寄与することで、社会課題を解決する」と掲げています。ロームの多岐にわたる製品は、エネルギー効率の向上、環境負荷の低減、ロボットの自動化や車の電動化による安全性の向上に資するものですが、それらはいずれも省エネ・小型化です。私の業務は、製品でなくプロセスラインの構築ではありますが、私たちが開発しているものすべてが社会課題の解決に貢献していると考えて仕事をしています。

C

私が今開発している絶縁ゲートドライバICは、EVやハイブリッド自動車にとって大事な部品なので、製品の開発自体が地球温暖化や大気汚染などの環境課題の解決に貢献しているといえます。また、経営ビジョンの省エネ・小型化の寄与のためには、特にパワーデバイスの性能を最大化できるようなスイッチング技術の確立が、絶縁ゲートドライバICとして価値のある技術と思っています。今はその技術開発に取り組むことで、社会課題に向き合っています。

A

私が担当する電源ICでいえば、自動車の電動化と高機能化により、年々消費電力が増加しています。そのため、より高効率で低消費なデバイスを企画し、市場に供給することが使命だと考えています。近年、ロームはIDMの強みを生かして生み出したNano電源シリーズを展開していますが、今後も開発と製造が一体となって、ロームの強みを生かした、世の中にない技術、製品を生み出していきたいです。

立石

松本社長がよくおっしゃっているのが、企業にとっての売り上げが社会貢献の総量であるということです。売り上げが上がるのは、それを必要とする方がいらっしゃるからで、まず売り上げを上げることが社会貢献の一つといえます。ここにいる3人はパワー系の担当ですが、世の中では次々に電動化が進んでおり、消費電力の多くでモータが使われているため、各人の開発が省エネにつながっているといえます。サステナブルの側面からしても、技術の進歩は省資源や省エネにつながっています。ですからエンジニアには、仕事のすべてが社会貢献につながっていると実感してほしいと思います。

イノベーションを生み出す企業風土や人事制度

立石

イノベーションを生み出すため、私が取締役として考えているのは、今以上に専門性を高めたエンジニアを多く育てたいということです。先ほど申し上げた、何でもできるスーパーマンのようなエンジニアは確かに素晴らしいですが、人間には合う、合わないがあります。私の仕事は、すべての社員に同じようなキャリアパスを提供するのでなく、さまざまなキャリアパスを用意し、どの方向性を選んでもいい、多様性のある人財を受け入れる環境を用意することだと思っています。一つのことを突き詰めるのもよし、ひと通り技術を学んだ上で、自分にできるものを決めるのもよし。もちろん、何でもできるスーパーマンでもいいです。その上で、どう組み合わせればより良いものができるかを考えるために、さまざまなエンジニアがいていい。同じ分野の専門家が集まると、視野が狭くなりがちです。全く別の分野から、違った視点で問いかけられることで、イノベーションが生まれる場合もあります。専門家がお互いにつながりあい、違った発想でアドバイスをしあう環境づくりが大切だと思っています。

C

立石さんがおっしゃるように、あらゆる経験をして自分の得意なところを見つけることはとても良いと思います。イノベーションとは、お客様や社内でのやりとりのなかで直面した問題や課題に対して真剣に向き合ったとき、初めて見つかるものではないかと考えています。私は若手の頃から、お客様との打ち合わせや立ち合い実験などの経験をさせてもらい、多くの問題に直面してきました。そうした場で、共に真剣に考え、課題解決をすることが、イノベーションにつながったと思っています。今後もそのようなあらゆる経験ができる会社であってほしいとロームに期待しています。

C

A

私も高い専門性を持ったエンジニアをもっと増やすべきだと思います。私は入社してから約10年間、電源ICの設計を担当していたのですが、当時はPMEやFAEといった専門的なポジションはなく、製品企画から量産後の顧客サポートまで、すべて設計者が担当していました。さまざまな業務を通じて幅広い知識と経験を身につけることができましたが、専門家といえるほど一つのことを突き詰めることを、私自身はできていませんでした。今後、競合に技術面でも商品力でも勝っていくためには、各領域でより高い専門性を身につけたエンジニアを育てていくことが必要だと考えています。

B

私は大事なことが二つあると思っています。まず、専門性の高いPh.D.をもっと増やすべき、もっと採用すべきということ。そして彼らがイノベーションを生み出すための組織づくりをする必要があるということです。立石さんも言われたように、同質性からはイノベーションは生まれません。さまざまな専門性を持った人と、逆に幅広く技術を知って横串を刺せる人、それらの人間を一緒にして、るつぼ的な化学反応を起こせるような組織づくりができれば、イノベーションは自ずと湧いてくるのではないでしょうか。

立石

さまざまな考え方があるからこそイノベーションは生まれるし、多様性を認めなければ、自分にマッチする方向性を見出す確率が減ってしまうと思います。働いていて楽しいほうが力は伸びますし、実際に仕事をするなかで楽しくなってくることも多いと思うので、社員の皆さんにはさまざまな方向性を用意しておきたい。ただ、専門家を育てるのは簡単ではありません。例えば大学で技術を学んだといっても、専門課程は2年です。会社に入って2年間仕事をしても、まだ専門家とはいえないのが実情ということを考えれば、本物の専門家はどれだけ時間をかければ育つのか、と考えてしまいます。一方で、やり始めると意外と楽しくなり、そのままずっと携わっている人も多い。結局、さまざまなチャンスを与えることこそが大事なので、ダイバーシティを高めていきたいと考えています。Cさんが言うように、イノベーションは困りごとの解決から生まれます。解決すると自分も幸せになるし、お客様も幸せになる。それが仕事の本質でしょう。困りごとの解決に1、2年かかるケースもあるでしょう。そのとき、例えばそのために1年でも2年でもR&Dに転籍して解決し、またLSIに戻ってくることがあっていいと思います。R&Dからはそんな提案も受けていますし、そんな社員がいていいと感じています。Bさんが言ったクラックも、しっかりと応力解析をすると原因は大体分かります。LSIのなかで応力解析の専門家が取り組むのもいいですが、R&Dが取り組むといった、多様性もあっていい。地域でいえば国内、海外の流動性、社内なら組織を超えた流動性を高めることによって、成長する機会も増えるでしょうから、そうした方向にロームが変わっていければと考えています。

イノベーションを生み出す企業風土や人事制度

B

B
半導体産業はB to Bビジネスで、私の場合、製品を製造するための素子やラインの開発を担っているため、具体的に携わっている製品や商品はない一方で、裏を返せばどのような製品にも携わっているともいえます。そこで大事なのは、AさんのようなPMEの方がしっかりマーケットやお客様の声を聞き、Cさんの部署でそれを具体的な製品にするために必要な特性や仕様を見極め、私たちの部署に伝えていただく。その際、ロームとしてできるものをつくるのではなく、お客様が求めているものをつくろうという精神で開発を進めることです。その体制づくりが必要となってきます。私自身の性格は、ひとつのものを深掘りするより、広く技術を知りたいタイプなので、今以上に技術の幅を持ったエンジニア兼リーダーとして、これからも会社、社会に貢献していきたいと考えています。

C

私は、今後も絶縁ゲートドライバICの商品開発に携わり続けたいと思っています。SiCパワーデバイスの需要が増えているなか、より性能を引き出せるような絶縁ゲートドライバICの開発に取り組んでいきたいです。お客様からは、絶縁ゲートドライバICで困ったことがあれば「ロームのCさんに聞こう」と思ってもらえるようなエンジニアになることが目標です。そのために、これからもお客様が抱える問題を一緒に解決していけるよう努めたいです。

A

私はPMEとして更に専門性を高め、ロームの強みを生かした製品・技術の企画、戦略立案に携わっていきたいです。繰り返しになりますが、今担当している電源ICに関していえば、コモディティ化が進んできていると捉えており、競合各社の製品で特性や機能面で大きな差がなくなってきており、商品ラインアップの豊富さや価格で勝負が決まるケースが増えてきています。この状況から抜け出すために、新たな勝ち筋を見つけたいと思って日々取り組んでいます。また、4月に、100%子会社だったラピステクノロジー(株)を吸収合併しました。同社の技術、製品とのコラボレーション企画が今後出されていくと思いますし、そういったローム初の製品や技術の創出に関わっていきたいです。さらには、ロームが掲げているグローバルメジャー、売上高1兆円の達成に向けて、もう一度海外に赴任し、これまでの経験や知識を生かして、海外顧客向けのビジネスや商品企画を通じ、海外売上高アップに貢献したいと思っています。

立石

エンジニアはオーガニックな成長に集中しがちで、それ以外にどうするのかを求めるのは難しいことがあります。ただ、製品系列には、あらぬ方向からやってくるコンペティターもいます。自分たちが持っている技術の延長線上で新しいものをつくりがちですが、負ける相手は、全然違う脇道からひょっと出てくる、同じようで違う技術の場合が多い。Bさんの話で出たフリップチップがまさにその小さな例なのですが、パッケージを組み立てる際、ワイヤボンディングが長年使用されていたところに、突然、フリップチップという技術が出てきた。Cuワイヤ導入などでワイヤボンディング技術は向上したものの、もう勝てないという状況になっています。こうしたゲームチェンジが必ずやってくることを、エンジニアは強く意識しなければならない。非連続的な技術が来たとき、連続的な技術で勝ち続けることはとても難しいのです。この先、デジタル技術が入ってくるなかで、アナログ制御だけでは勝てない領域が出てきます。サーバー用POL電源はデジタル技術がいち早く導入されている分野で、市場が伸びているなか、ロームがサポートできていないのが課題です。この領域では、今回ロームと一体となった、ラピステクノロジーの持つデジタル技術と、ロームの持つアナログシステム技術とのシナジー効果でのイノベーションを期待しています。ただ、悩ましいのは、連続性があるから強いというのも、また事実なのです。つまり、その見極めが重要になってきます。どこまではこの連続でいけるが、どの辺りから違う技術が入ってきそうだと見極めるのは、AさんのいるPMEの仕事となります。お客様のニーズを解決するのは確かに重要ですが、そればかりに対応していると、別の競合から良い提案がもたらされ、あっさりお客様をとられてしまうということはよくある話です。ニーズ解決だけではなく、シーズ技術でイノベーションをつくり出し、ソリューションの提案型ビジネスもしていく必要があります。連続性と非連続性は、必ず交代でやってくるので、そこをエンジニアたちは意識してほしい。エンジニアを違う環境にポンと入れると、はじめは戸惑っても、2年くらい経って素晴らしいことを考え付くかもしれない。そうした非オーガニックな環境に置くことも考え、グローバルメジャーに向けたイノベーションを加速させていかないといけませんね。

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