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社外取締役座談会

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経営のレジリエンス力の更なる強化に向けた取締役会の役割

経営のレジリエンス力の更なる強化に向けた取締役会の役割

左から)社外取締役(常勤監査等委員)中川 恵太 / 社外取締役 取締役会議長 南雲 忠信 / 社外取締役 Peter Kenevan / 社外取締役(監査等委員)小野 友之

本インタビューは、ROHM Group Integrated Report 2024に掲載されたものです。

ロームの取締役会の運営について意見をお聞かせください。

南雲

ロームの取締役会議長はこれまで社長が務めていましたが、2024年から議長を拝命しました。私は、横浜ゴム(株)の代表取締役社長、代表取締役会長兼CEOを経て、2021年からロームの社外取締役を務めており、これまでの経験を生かし、今まで以上に活発な議論が行われる会議にしていきたいと考えています。
取締役会は、いうまでもなく会社の最高議決機関であり、この場で決まった事項は非常に重い意味を持ちます。企業価値をどのように上げるかを考えることが取締役全員の役割となってくるため、さまざまな意見を忌憚なく言えるようにしたいというのが、議長としての思いです。ロームの取締役会は、これまでも非常にオープンで自由に議論ができ、松本社長も丁寧に対応されていました。かといって自由にものを言いすぎ、単なる座談会になってはいけません。全員が賛成、反対の立場をはっきりさせながら、建設的な意見を言い合える場にしたいと思っています。
今のところ問題なく運営できているものの、企業価値を上げるために取締役会の議題がもっと多岐にわたってよいのではないか、と思うこともあります。今後、人的資本経営やESGの取り組みなど、さまざまな点を深く議論していく必要があると考えています。

Kenevan

私は25年間、マッキンゼー・アンド・カンパニーで半導体業界を含めさまざまな業界を見てきました。南雲さんの意見に全く同意で、取締役会自体は多様なコミュニケーションができ、さまざまなステークホルダー目線で活発な議論が行われています。ただし、この厳しい市場局面において、株主価値を上げることを第一の任務とするならば、株主目線の議論をもっと深めていくべきと感じています。つまり投資対効果やROICの議論を深めるべきだと思います。

Kenevan

中川

私は長年、金融機関に勤務してきました。取締役会については、会社が考えていることと、実際に上がってくる議題のマッチング度合いが大切と考えています。一方で、会社の規模が大きくなり、「グローバルメジャー」という高みを目指すにつれて、議題の中身は複雑になります。これまでロームの取締役会は意思決定や施策の策定をしてきたわけですが、更に発展させて、将来のビジョンを話し合う場になっていく必要があります。モニタリング型のような取締役会にしていくのか、それとも現状のように足元の個別課題を一つ一つ決めていくのか、そうした方向性自体を話し合うべきだと思います。

小野

南雲さんが議長となられ、取締役会の議論が整理され、松本社長が積極的に説明できる環境になり、議論が一層深まっていると感じています。公認会計士の私は、監査等委員としてロームの現場に行く機会が多いです。そこで感じたことや気になる点についても、取締役会で自由に発言させていただいているのでありがたく思っています。

人財戦略について、どのような議論がされているのでしょうか。

Kenevan

ロームの人財の質は非常に高いと感じます。ただ、質を保ちつつ、性別、国、年齢、さまざまに多様化させるのは難易度が高い。ロームが多様な人財をうまく活用していこうとする意思は伝わってきますし、取締役のなかでも、グローバルHRが専門の方を中心に、その方向に引っ張っていこうとされていますが、末端社員にまで落とし込み、仕組み化するのは、1、2カ月ではできません。その文化をつくるのは、5年、10年かけて取り組む大きな課題といえます。

中川

品質を重視してきた会社ですから、Kenevanさんがおっしゃるように人財の質は高いと感じます。ただ、どの企業の悩みでもありますが、監査に訪れた現場では、世代間の偏り、次世代への継承、人財流出といった懸念を抱えています。社員の年齢構成、事業環境が変化し、さらに人財がどうあるべきか問われるなか、ロームは今、会社の風土を変革していく過渡期にあるのではないでしょうか。有機的にうまく歯車を合わせて新しい文化をつくるよう、5年、10年かかるとしても議論していくべきだと、私も思います。

小野

小野
人財戦略は経営戦略と連動させることが求められています。しかし私が社外取締役となってからのこの1年を振り返りますと、取締役会の議論はやや経営戦略が先行し、人財戦略がそれに引っ張られる形で必ずしも連動できているとはいえませんでした。具体的には、SiCパワーデバイスの大型投資に対応する人財をどうするのかという議論のウェートが高く、ローム全体の人財育成をどうしていくかの議論が少し不足しているように感じました。ただ、ロームは創業以来、人財が大切であるという風土を確立しているだけあって、取締役の皆さん全員が人財育成の重要性を強く認識しています。今後、人財戦略と経営戦略がうまくかみ合っているかについて注視していきます。

南雲

「企業は人なり」の言葉があるように、社員のやる気をいかに引き出すかが大切で、会社は人財がすべてといっていいでしょう。気になるのは、財務・非財務のさまざまな目標に対し、各部門の人財が足りているのか、取締役会では見えてこないという点です。小野さんがおっしゃったように、SiCパワーデバイスで人財が必要なのは分かるのですが、非財務の面で本当に足りているのか、どう育てていくのか、モチベーションに関わってくる報奨制度をどう構築すればいいのか。取締役会では、人財不足の世の中で何を強化すべきなのかを協議していきます。

ロームに必要な次世代のリーダー像についてお聞かせください。

中川

中川
ロームは、創業者の強いリーダーシップで率いられた時代を終え、組織風土の転換期にあると感じています。そのような状況で求められるのは、組織を主体的に動かしていけるリーダーで、社内外、国内外と円滑にコミュニケーションをとる能力があり、自らが楽しそうに仕事をしているリーダーにこそ、人がついてくるのだろうと思います。集団の先頭に立ってランナーを引っ張ることもあれば、最後尾で全体の配置やペースを考えて走ることもあるような、走っている人と伴走しながら調和を図っていくコミュニケーション能力を持つ人が、これからのロームに必要なのではないかと思います。そのサクセッションプランはそう簡単ではありませんから、複線的な人事のなかから育て、社内に限らず、社外の人も含め、長い目で見ることも必要でしょう。

小野

私は、ロームのリーダー像は基本的に変わらないと思います。ロームには創業時に定められた「企業目的」「経営基本方針」があり、これらは極めて具体的で普遍的です。私は「不易流行(変わらない本質を大切にし、時代の流れに応じて新しいものを取り入れること)」という言葉が好きでして、ロームのリーダーにも創業時の理念を自分のものとし、自身の言葉で社員に浸透させ、時代や地域に合わせて実践していくことが求められると思います。そのためにも、中川さんの言うコミュニケーション能力が必要です。ロームの経営基本方針に「社内一体となって、品質保証活動の徹底化を図り、適正な利潤を確保する」とありますが、この意味を社員みんなが確認して、これをベースにしておけば軸足はぶれません。周辺環境が激変する今の時代こそ、リーダーが軸足をしっかりさせることで、会社のレジリエンスは高まっていくと考えます。

南雲

私の経験でもぶれないことは大事です。今、株主価値経営などといわれていますが、会社が誰のためにあるのかと問われたとき、私は、社員のためにあると考えています。儲かったときの利益配分も含め、社員を大切にし、会社が良くなれば、ひいては株主のためになる。そうした思いをぶれずに持ち社長、会長として横浜ゴムのトップを務めた15年間、週に1~2回のペースで社内イントラのブログを発信し続けました。社長就任時とその後で言っていることが違うとなれば、みんなついてこないわけです。やはりコミュニケーション能力も大事で、それがない人間や、群れたがる人間も、リーダーになる資格はないと思っています。

Kenevan

ぶれないといっても、間違ったところで頑固経営にならないよう気を付けなければなりません。立ち戻るべきはロームのDNAです。創業の精神からぶれないからこそ、com-promise(合意形成)ができるし、ドライな判断もできます。加えてこれからの時代、「人生=仕事」ではありません。ロームの経営陣を見ていると、まだ、ロームこそ人生のすべてという印象を受けないでもありません。ロームのそのDNAも、それはそれで美しいし、良さでもあるのですが、次世代リーダーを育成するには転換が必要でしょう。私が務めていたマッキンゼーには「More than a career. Less than a life.」という言葉もありました。働くことが、単なるキャリアではなく、使命や目的のためという意味です。今では優秀な人財こそ、ワーク・ライフ・バランスという単純な話でなくて、仕事と、愛する家族との時間なり、人間として歩む人生とをバランスをとって両輪で進めていこうとしています。そうしたバランスも、次世代リーダーについて、重要視したい点です。

グローバルメジャーを実現する上での課題は何でしょうか。

南雲

ロームが今、市場からの評価もそうですが、かなり厳しい状況下にあることは否めません。半導体業界は、つくれば売れる、儲かるという時代がありましたが、反転してしまいました。ロームは技術立社で、技術は世界ナンバーワンと思っていましたが、果たしてそうなのか。もっとこの技術では負けないという事業をつくらなければなりません。そのロームの危機感は、2024年、CxO制度を廃止し事業部制に変えたことに表れています。スピード感を出し、事業優先にして立て直そうと、全取締役が納得して決めました。新体制での取り組み方を、引き続き取締役会で議論していきます。

南雲

Kenevan

私も南雲さんと同じ意見で、半導体業界は厳しいとはいえ、技術は譲ってはならないところだと思います。グローバルメジャーを目指すなら、日本の企業全体にいえることですが、もっと危機感を持ち、ハングリー精神を高めていかねばなりません。また、半導体は特に規模がものをいう世界ですから、今後は規模の強みを得ていく必要が出てきますが、M&Aなのか、大きな投資なのか、今はそのゴールが見えないままに、とりあえず延長線上で事業を進めている印象です。そうではなく、市場や競合の動きを見て、ロームがどのくらいの事業規模で、どの商品群のマーケットシェアを何位にすれば勝ち抜いていけるのかという「勝ちパターン」を描いた上で、逆算し、現状とのギャップをいかに埋めていくかの議論が必要となります。これはどの日本企業も同じ状況ですし、5年、10年のスパンでは遅いため、ロームが先陣を切って勝ち方を見せたいです。投資家の方々のご意見も参考にしながら、一度、エクササイズとして始めていくべきと考えています。

中川

私は監査等委員なので本来、クールな目で見るべきなのでしょうが、ロームという会社は、「やるぞ」と言ったときのスピードやパワー、集中力が素晴らしい。私がいた金融業界では、瞬発力がなかなか発揮されず、フラストレーションを感じることもありましたが、ロームはみんなで一気に走っていく。ただ繰り返すように、今は過渡期にあるため、さまざまなことがかみあっていないと感じます。好奇心旺盛なところなど、ローム固有の力の源泉は、どの企業もまねできるものではありません。その企業文化を生かし、周囲が手を取り合い、きちんとかみ合って進んでいける仕組みづくりや、それを実行するリーダーシップがあれば、グローバルメジャーとして十分に適応していけると思います。

小野

インテル経営者のアンドリュー・グローブに『パラノイアだけが生き残る(Only the Paranoid Survive)』の著書があるように、半導体業界は心配に心配を重ねるくらいでないと生き残れません。これまで無借金経営で潤沢な資金があったロームですが、現在はグローバルに打って出るために借入をして多額の投資をしているので、マインドチェンジが必要になりました。ただ、その気持ちの切り替えが追いついておらず、危機感が足りていないかもしれません。しかし、いきなり会社が過度に危機感をあおれば、誤解されて優秀な人財が抜けたり、新しい人財が来なくなってしまったりします。そうではなく、生き延びるために健全な危機感を持たなければならないと思います。取締役の多くがエンジニア出身で自社の技術に自信を持たれていますが、会社全体としてすべての部門が健全な危機感を共有することが必要と思います。意識改革に私も尽力していきます。

30年後や50年後のロームの目指す姿のため、取締役会はどのような役割を担っていくべきでしょうか。

小野

グローバルメジャーは目標ではなく、一つの通過点です。ロームは創業時から「最終商品のメーカーに優れた価値のある部品を提供し続ける収益力のある会社」であることを使命としています。30年後も50年後もこの使命を永遠の課題として突き進むべきでしょう。事業規模を拡大し新商品も次々と開発して、2030年度にはグローバルメジャーになり、この使命を達成し続けるために、事業ポートフォリオの組み換えが必要です。今後開発される新商品をどのポートフォリオに組み込んで進めていくかを議論し、それに合わせた人財育成もしていかねばなりません。経営戦略と人財戦略を連動する形にどう持っていくかを、さまざまな情報を収集しながら議論することが、取締役会の役割と考えます。

中川

小野さんがおっしゃるように、企業目的にある、「つねに品質を第一」とし、「良い商品を国の内外へ永続かつ大量に供給」することから外れてはいけません。小型抵抗器の発明に始まり、さまざまな商品を展開し続けてきたわけですが、今後は「良い商品」に何を選ぶのかが課題となってきます。ロームは電動化・電装化が進展する社会の真っただ中にいて、幸い、衰退していく分野ではありません。技術の発展に合わせ、追いつけ追い越せの勢いで業界をリードする会社になればと考えています。その実現に向けた取締役会の役割とは、物事を決定する場であるとともに、「こんなこともできるんじゃないか」というビジョンを描く議論の場だと考えています。現場の社員たちが形づくろうとしている発想に対して、方向性を探り、権限や資本でもって、事業化に向けて推進していく。例えば取締役会で、若手研究者から「こうしたものをつくっていますが、いかがでしょう」といったプレゼンテーションを受けたり、取締役から「この分野で1位、2位として争える商品はないか」と問いかけたりする場があってもよいでしょう。つくられた資料だけでディスカッションする取締役会では、グローバルメジャーの先にはいけません。

Kenevan

南雲さんの言葉を拝借しますが、やはり長く勝ち続けるには、経営者だけでなく会社自体も「ぶれない」ことが重要です。グローバルメジャーと一言でいっても、戦っている分野によっては巨大企業もあれば、その分野にとってのメジャーな企業もあり、そうしたなか、技術、ビジネスモデル、顧客、企業規模、人財など、いずれかの「ならでは」の存在にならなければなりません。小信号デバイスといえばロームといわれていますが、誰もが違和感なく理解できる、社内外に浸透している存在意義を持たなければ、いずれ代替されてしまいます。そうした絵姿に向かう実行計画は、各事業のマネジメントがつくるわけですが、そこにしかるべきリソースが与えられて実行され、チームでモチベーション高く活用されていくのを見届けることが取締役会の役割だと考えるので、そうした取締役会にしていきたいです。

南雲

先ほどコミュニケーションの話が出ましたが、社内だけでなく社外とのコミュニケーションも大事です。グローバルメジャーとなる目標の2030年度を過ぎた辺りからは、どの会社と一緒に事業を進めていこうといった、他社と話し合いのできるコミュニケーション能力を持った幹部が必要となってくるでしょう。もっと膨らませて、例えば、ある世界に冠たる企業に負けないために日本の企業全体でまとまろう、といった横のつながりを模索していく局面も出てくるかもしれません。それは何十年も先の話だとしても、取締役会でそうした提案ができるとよいと思います。ただまずは、ローム自身が強くならなければ、他社に話しかけたところで乗ってきてくれません。そうした長期ビジョンを頭に入れながら、ロームが日本にとってどういう企業になっていくべきか、取締役会で話し合っていきます。

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